拾ったお財布
ある冬の日の夕方、
同級生の新築祝に駆け付けるため、
子供の頃通ったなつかしい道を歩いていた。
むぎゅ!
最初、携帯電話を踏んだのかと思いました。
よく見ると、きゃっ、紳士物の黒くて長いお財布!!
でも、どうせ、嘉門達夫ワールド
キャラメル ひろたら 箱だけ〜
(はるばる〜来たぜ、函館〜・ の節で歌ってね。)
のたぐいだろうと思い、一応中身を調べると、何と!!
1万円札が10枚ぐらいと、千円札が同じく10枚ぐらいと、
いろんなカード類がぎっしり。
きゃ−っ!! 何だか触るのも怖くなって、その場にもう一度
置いて行こうかとも思いました。
けっけいさつに届けなくちゃ。あっ、でも事情聴取みたいなものがあって
面倒だしい。同級生宅に行く前に、なつかしい町並みお散歩してみたいしい。
頭の中はぐるぐる回転し、何でこんな時にこんなものが落ちてる!!
と、何だか腹立たしくなって、
不思議と、このお金を今月の生活費の足しにという、ふとどきな考えは、
起こりませんでした。
朝起きたら、
札束が郵便受けにねじ込まれていて、気持ち悪いので、警察に届ける
という人の心境と同じです。
何か、我が子ではないので、早く保護者にお返しにという気持ちになります。
お財布の中に、洋服の青山の会員証があって、そこにお名前、住所、
生年月日まで書いてあり、昭和10年生まれの初老の男性でした。そして、
電話番号も書いてあり、拾った場所の近所の人だったので、
お電話をして差し上げました。
そしたらね、泣いて大喜びをするのかと、思いきや、
「え?財布?あっそう、じゃ取りに行きます。」
と、何の感動もなく、お電話を切られたので、
私は気が抜け、よろよろとその場にへたりこみ、
ああ、この人は、我が子を捨てたのね。拾った私が大事に育てたら良かった
のね。お返しするのが迷惑だったのね。
と思い、待つこと10数分、青い顔をした初老のおやじがあわてふためいて
やって来ました。
彼はお財布の中身を確認し、平身低頭、米つきバッタのように、
何度もお礼を言いました。
どうも、中身は抜かれて、空のお財布だけを返してもらえると
思っていたらしい。
それと、奥さんには、どうも秘密だったようです。
電話の向こうに奥さんがいて、怒られると思っていたのでしょう。
散髪に行こうと思ったら落としてしまったと言っていましたが、
10万もかかる、散髪屋ってあるのかな?
まあ、いいわ、青山の背広が妙にせつなく見えました。
私は、ぼろは着てても心は錦。どんな花よりきれいだよ。
お金は天下の回りもの。
いつかきっと、本物の金運がめぐってくるでしょう。